「ヘルパー」の仕事と聞くと中高年が多く、低賃金でハードな仕事をイメージが先行するかもしれません。しかし「ママさんや男性がヘルパーとして活躍できる場をつくり、自信を持てるようになってもらいたい」という想いを抱くのが、東京都大田区蒲田にある『みずたま介護ステーション蒲田(以降、みずたま)』所長の山口早由壬さんです。その想いの背景、ママさんや男性が活躍できるような事業所になるまでの道のりを伺いました。
PROFILE
ープロフィール紹介ー
山口早由壬
東京海上日動ベターライフサービス株式会社
みずたま介護ステーション蒲田・自由が丘 所長
もっと詳しく
東京都出身。介護福祉士の講座やヘルパー1級・2級講座など、資格取得のフリー講師として結婚後の転居先の愛知県と東京都の2拠点で活動。その後、2007年よりみずたま介護ステーションに入社。本社で7年間の研修企画や研修講師を経て、現場に戻りたい思いが強くなり自宅に近い『みずたま介護ステーション蒲田』に異動し、2024年で所長歴5年目。
聞き手:みゆこん、しらいしゆみか
自分のやりたいことを叶えるために、名古屋から上京
山口さんは現在、みずたま介護ステーション蒲田の所長さんですが、どのような経緯で入社されたのでしょうか。
以前は、愛知県と東京都で介護に関するフリーの講師として活動していました。みずたま介護ステーションを運営している会社でも講師をしていて、「ヘルパーの健康面や精神面を支え、収入が良く、ヘルパーが元気だからこそ高品質のサービスを提供できる」というコンセプトに惹かれて入社しました。
講師としてお伝えしていた内容と、みずたまさんのコンセプトが重なるところがあったのでしょうか。
実はそれが逆で。みずたまのコンセプトを伝えているときに、本来自分がやりたかったことに気づいたんです。当時は、自分の身をすり減らしてでもお客さまのために仕事するのが当たり前でした。しかし、みずたまのコンセプトに触れて、自分のやりたかったことに気づいて今の仕事に繋がりました。
愛知から東京に引っ越すときには、友達に「全部やり尽くして結婚したんじゃないの?」と言われたんですが、「まだまだやりたいことがある。名古屋の水は生ぬるいんじゃ」と言って東京に戻ってきました(笑)。
山口さんの本来やりたかったこととは、なんでしょうか。
私が27〜28歳のころは、実績や経験がある若手の講師があまりいなかったので、どこに行ってももてはやされました。さまざまな意見交換やブラッシュアップできる環境がなくて「これで正解だと思ったらダメだ!」と思ったんです。
リピートで講師として呼んでいただいていたので、評判は良かったと思いますが、受講者にちゃんと伝わっている手応えや実感がもう少しほしかった。一度だけの付き合いではなくて、受講者のその先を見たいと思いました。
できることを損なわないサポートで“転ばぬ先の杖”であり続ける
そもそも訪問介護サービスではどんなことをお願いできるんでしょうか。
排泄や食事、入浴や着替えなど身体的なサポートから掃除、買い物などの家事全般、通院付き添いや外出のサポートまで、生活全般のお手伝いをしています。ただ単に代行するのではなく、お客さまご自身のできることを損なわないように、ヘルパーさんの力を使っていただければと思っています。
訪問介護サービスは、高齢のご家族や障害のある方がご自宅で長く元気に過ごしていただけるためのちょっとした“転ばぬ先の杖”のようなイメージですね。
できることを損なわない、というのがすごくわかりやすいですね。たとえば、訪問介護と訪問看護はどのようにに連携するのでしょうか。
持病のあるお客さまの体調に変化があったときに相談できたり、病院に受診するかの判断やかかりつけ医への指示を仰げたりするのが訪問看護かなと思います。訪問看護の利用を迷っていたら、もちろん制度上のかかる費用などをお伝えしたうえで、ぜひ入れてくださいとお伝えしています。
また、これはケアマネジャーのような視点になってしまいますが、今具合が悪くなくても、定期的に看護師や医療従事者に来てもらって、普段のお客さまを知ってもらうこともすごく大事だと思っています。
なるほど。山口さんはこれまで蒲田で生活されるたくさんのお客さまを支えてこられたと思いますが、実際に利用されるお客様はどんな方が多いのでしょうか。
独居や認知症がある高齢の方が多いですね。遠方にご家族がいる方もいますが、身寄りのない方が多いように感じます。
ちなみに、これまで蒲田で10年近く働かれてきて、どんな街のイメージがありますか。
人懐っこく、フランクな雰囲気がありますね。仕事で介護関係者と話すと、すぐ「飲み行こう!」と仲良くなれます。仕事以外の関係性もあると、なにか困ったことがあっても相談しやすいですね。お客さまも「近くを通ったから」とひょっこり事務所に来ることもあります(笑)。
いいですね~、蒲田は人との距離が近いんですね。これまでの訪問で印象に残っているエピソードがあれば教えていただけますか。
そうですね、エピソードとして思い出すのは2つあります。
1つ目は、ケースワーカーさんから「支援したい方のご自宅のゴミがすごいので、掃除をしてほしい」と依頼があり、実際に行ってみるといわゆるゴミ屋敷のような状態でした。ご自宅には見るからに身なりが荒れ果てた状態の家主がいらっしゃったんです。
最初はゴミの片付けや、身だしなみを整えることなどを提案したのですが、拒否されてしまいました。それではご自宅にあがることはできないので、その後は近くを通るたびに顔を出してお話しするようにしたんです。
すると半年後、ようやくご自宅の中に入れてもらえるようになりました。そこからケースワーカーさんの提案で、本人の了承を得てみずたまのスタッフでご自宅を大掃除しました。徐々にご本人の身なりも綺麗になって「こんな表情をする方だったんだ」ということがあったんです。
ええ!それは大きな変化ですね…!
その方は数年後に最期をご自宅で迎えられましたが、「こんなに自分の身の回りのことを手伝ってくれる人はいない」とおっしゃっていましたね。ご自宅の片付けは一苦労しましたが、みずたまには力仕事も得意な男性ヘルパーもたくさんいるので一緒に頑張りました。
もう1つは、支援期間が6年ぐらいのお客さまをご自宅で看取ったことです。
施設の入所をずっと医師から勧められていましたが、自力でなんとか頑張りたい方で、本人は頑なに拒否されていました。遠方にお住まいのご家族も「本人が決めたなら、何年かかっても構いません」とのことだったので、ヘルパーさんが1日に何度かサポートに入り、ご自宅で生活できるようにしていました。
医師から自宅でみるのはもう限界と言われて3年ぐらい経っていましたが、ご自宅での生活を支えられたのはご本人はもちろん、関わったうちのスタッフや関係者も本当にすごいことだなと実感しました。
ママさんや男性を迎え入れたい。介護業界で活躍できる雰囲気づくりに奮闘
みずたまさんでは、働くスタッフに対してどんなことに力を入れているのでしょうか。
まずはサポートの手厚さですね。大田区内の事業所のなかでは登録しているヘルパーさんと社員の人数がかなり多いほうだと思います。なにかお客さまの変化があったときに「今日から毎日行きますよ」と、すぐに対応できる体制を整えています。
他にも介護保険対象の事業所のなかでは、ヘルパーさんの平均年齢が30代と若く、蒲田事業所はみずたまの43拠点の中でも一番平均年齢が若いんです。
30代のママさんも多く、ママさんで曜日固定や短時間で働きたいという要望と、マッチングできるように積極的に採用しています。
ママさんを積極的に採用しているのは会社の方針なんでしょうか。
これは私の方針です。私も子どもがいるので、同じように子育てを頑張りながら働きたい仲間を増やしたいからです。
実は以前まで、訪問介護では小さいお子さんを抱えているママさんは急な休みが多く、どの会社でも採用をしぶられていました。他でヘルパーに登録していたママさんが、お子さんの事情で休みが続いてお仕事が減ってしまって、ダブルワークを希望してみずたまに来てくれたことがありました。
ここは私の腕の見せどころだと、「急なお休みでも、代わりに行ける人や体制をつくるからどんどん仕事していいよ」と、みんなでカバーしていました。彼女は今3児のママですが、同じような境遇のママさんをみずたまでは仲間として迎え入れたいです。
みんなの枠が少し余る状態で働いて、スタッフになにかあっても吸収できる形を目指しています。スタッフの人数を増やしたことで、ヘルパーさんがお互いに助け合う補完関係が生まれるようになりました。
ママさんの採用が消極的だったのは意外でした…!
そうなんです。今でこそ、その体制が整ってきましたけど男性のヘルパーさんも同じですね。
ママさんを積極的に採用し始めたころ、同じように男性を採用し始めたんですけど…。お客さまが質の高いサービスを受けられるようにヘルパーとケアマネジャーの調整をする役割があるサービス提供責任者(以降、サ責)から、お客さまやご家族から「男性禁止」と断られてしまうと話していました。
しかし、その人の働きぶりや人柄を伝えて、男性同士だからこそ介入しやすい場面もあると、根気強く男性ヘルパーの必要性について説明し、女性同様に男性のヘルパーが支援することも当たり前という雰囲気をつくっていきました。
介護業界の中で男性禁止という雰囲気がまだ根強くありますが、男性ヘルパーの仕事ぶりや姿勢をみて、みんな変わっていきましたね。
人の人生を背負っている。自分に自信を持つための一助になりたい
今は所長としてスタッフをみられていると思いますが、仕事で大切にしていることはどんなことでしょうか。
私はできるだけ後方支援であることを意識しています。お客さまだけでなくスタッフの力を損ねてしまう存在にはなりたくないので、基本的にのびのびやってもらっています。
なにかあったときやこれは危ないというところが見えたら、一緒に軌道修正をしてあげる感覚ですね。
名古屋で働いていたときにイメージしていたことが、今のところ実現できているようにも感じました。
そうですね。お客さまやご家族、スタッフやヘルパーさんを含めて、人の人生を背負っているという感覚は強くなりましたね。 後方支援と言いながらも、私が仕事配分をどうするかでスタッフの収入などにも影響があるので、責任感もありつつやりがいもあります。
私は自由が丘と蒲田の事業所を兼務していますが、名古屋時代に感じていた“関わった方のその先をみたい”という思いもあって、1〜2ヶ月でスタッフ100人くらいと面談しているんです。
ヘルパーさんとの面談はサ責に任せてもいいのですが、年に1回は1人ひとりとちゃんとお話ししたいと思っています。
兼務なんですね!現場で実際を見ないと評価は難しいんじゃないかと思いますが、どのような工夫をされているんですか。
ヘルパーさんだと月の収入など定量的な評価が主になってしまいますが、トラブルやクレーム対応の状況から評価しています。
うちのユニークな取り組みとしては、グッジョブ報告というものがありまして、お客さまや関係者から褒められたことを全部データ化しています。褒められたスタッフが自分で報告したり、ケアマネジャーやサ責がお客さまのところに行って褒めていただいたことを全部言語化しているんです。
すごいですね!スタッフにとってはモチベーションアップにもなるし、山口さんも純粋に嬉しいですよね。
そうですね。また、仕事で大事にしていることとしては、当然のことかもしれませんが、求人の応募があったら誰よりも速くレスポンスすることです。応募された方にはなるべく顔を合わせて話そうとお伝えしているんです。
応募してくれた方ともお1人ひとりとお話しされているんですね。直接お話しするときはどんなところを見られているんですか。
お仕事相談のスタンスでお話しするのですが、相手が求めているライフスタイルや仕事への適性と気持ちですね。
みずたまとなにかマッチしていないかもしれないと感じたら、ご本人のこれからを考えて他のサービスを紹介することもあるので、私が伝えていることの理由や背景を理解されているかも気にしていますね。
また、訪問介護はお客さまやそのご家族とコミュニケーションをとるお仕事なので自分の理解を言葉で伝えてくれるか、相づちの打ち方なども見ています。あとは、訪問介護に不安や怖さを感じている方はリスクヘッジができるので、自信満々の方より私は向いていると思いながらお話をしています。
細かい部分まで見られているんですね。では最後に読者へのメッセージをお願いします。
みずたまのサービスを受けたいと思ってくださるお客さまが増えることを願いつつ、1人でも多くの方にみずたまで働いてもらい、ヘルパーの仕事で自信を持ってもらいたいです。月に一度行う研修に力を入れていて、そこで取得できる加算をヘルパーさんに還元しているので、給料水準は高めだと思います。
ヘルパーのお仕事で自立する自信がついた方もいらっしゃるので、その一助になれるなら1人でも多くの方の力になりたいです。ママさん大歓迎です!
素敵なインタビューをありがとうございました!
撮影・編集:しらいしゆみか