プロスケートボーダーを目指して上京し、30代で理学療法士となった中島卓也さん。37歳の若さで有料老人ホーム「リニエハイムおおた」の代表に就任しました。
リハビリテーションの視点を活かしながら「豊かな時を過ごしていただく」ことを目標に掲げ、誰もが安心して暮らせる場所を蒲田につくり上げてきました。
そんな中島さんの、仕事への想いと人柄に迫ります。
PROFILE
ープロフィール紹介ー

中島卓也(なかじま たくや)さん
株式会社リニエArts代表取締役
福島県出身。上京し、上場企業に勤めながら、スケートボードの練習に励む日々を送る。上京から3年、プロスケートボーダーへの夢を追い渡米するも帰国。映像制作会社に転職。その後、一念発起し理学療法士の道へ進む。2012年、訪問看護ステーションに入職。現場経験を積みながら新規事業を次々と提案し、同会社の企画本部へ移動。2017年、株式会社リニエArts代表取締役に就任した。
聞き手:えぼしまなみ、しらいしゆみか
28歳、「13歳のハローワーク」で見つけた仕事

えぼし中島さんが理学療法士になったきっかけを教えてください。
中島さん28歳の時、映像制作の仕事をしていて、好きなことはできていたんですけど、月収が十数万円ほどで。今の奥さんと出会って「この人と結婚したい」と思った時に、さすがにまずいかもしれないと思ったんですよね。
その頃、村上龍の「13歳のハローワーク」を買って読んだんです。
そうしたら、理学療法士っていう仕事があって。もともと身体を動かすのが好きだったし。これになろうと思って仕事を辞め、学校に入りました。こうして理学療法士の道を歩み始めたんです。
えぼし理学療法士を取得後は、どんな道を?
中島さん実習してみると、病院はちょっと自分には合わないなと感じました。地域で働きたいと思っていたところに、訪問看護ステーションの求人があって入職したんです。それが、たまたま今のグループの母体になっている会社でした。
入ってみたら社長が新しいことをどんどん提案させてくれるんですよ。デイサービスやりたいとか、ケアプランセンター作りたいとか言っていたら、そのうち新規事業の企画部門に移っていきました。
いろんな提案をしている中でリニエハイムおおたの話が出てきたんです。
もともとここは、岡田整形外科という病院だったんです。現在院長をしている依田先生の親族の方が運営されていました。入院や手術もできる個人病院だったんですが、なかなか患者さんも来なくなってしまったみたいで。一旦閉院されていて。そこから、依田先生と「リハビリテーションクリニックを一緒にやりましょう」という話を進めました。
入院施設だった上の階は、「モナミ」という名前の有料老人ホームでした。リニエとしては、有料老人ホームの運営は未経験で、買収するか悩んだんです。だけど、運営に関して経験のある人に相談もできるし、繋がりもあったことから、M&A(合併買収)を決めました。
ある日突然代表に。やるしかなかった。

しらいし代表になったのはどういう経緯だったんですか?
中島さんM&Aが決まって、さて誰が代表をやるかという話になった時に「じゃぁ、お前やれ」って(笑)。その時は平社員で、37歳の時です。全然そのつもりはなかったんですけど、やるしかないなと。
しらいし立て直しの時にメンバーは揃っていたんですか?
中島さん本当にM&Aって難しくて……。当初いた職員は半分以上辞めました。
新規採用を進めたり、もちろん残ってくれるスタッフもいます。本社からの応援もありました。
しらいしもともといた方と、新しく入ってきた方と、中島さんと、最初難しかったところもありそうですね。
中島さんどうしても運営母体が変わると理念も変わるんで。僕らはやっぱり理念を大事にしているので。例えば、利用者様第一とか、職員スタッフの家族を守るとか。まずは、グループの理念を前面に出していくので、いろいろなギャップが生まれることもあります。
しらいし運営側に入ってマネジメントをするのは、初めてだったと思うのですが。
中島さんそうですね。リニエの本社で財務を見たりとか、マネジメントもやっていたんです。職員一人ひとりとしっかり向き合うっていうところは大事にしています。
マネージャーとして、スタッフと腹を割って話すんです。自分がやりたいと思うことを伝えると、それが合わないっていう人もいるし、同じように「こういうことやりたいです」って言ってくる人もいる。
これは、僕のやり方なのかもしれませんけどね。
自転車操業から始まった。地道な営業活動で満床へ

しらいし代表に就任した当初はどうでしたか?
中島さん引き継いでみると、財務面では課題が山積みで、整理していくにつれその大きさを実感しました。資金繰りが非常に厳しい状況で、まずは足元を固めるところから始めるしかなかったんです。
しらいし大変な状況だったんですね。
中島さんとにかく動くしかなくて。地域の銀行に相談したり、補助制度を調べたりしながら、少しずつ資金の基盤を作っていきました。
しらいしそこからどうやって立て直したんですか?
中島さん稼働率を上げるしかないんですよ。入居者さんに入ってもらわないといけない。そのためにまず知ってもらわないといけない。施設長と一緒に近隣の病院に営業してまわりましたが、なかなか思うようにはいかなくて。
一番効果があったのは紹介会社への営業でしたね。「うちは紹介料を絶対払います、相談してください」って伝えて回って。そこから少しずつ入居者さんが増えていきました。
もともと訪問看護時代から「知ってもらうために自ら地域に出ていく」というのを社長に教えてもらって、徹底してきたんです。
地域では、たとえば「梅ちゃんカフェ」という医師会の集まりにも毎月顔を出すし、地域のイベントにも参加しています。近くの御成橋商店街の福引きを手伝ったり、お風呂屋さんや食堂に顔を出したり……気づけばみんな患者さんで、仲良くなっていくんですよ(笑)。
地域の医療、介護関係者と話ができるようにしています。待っていても人は来ないんです。出ていくしかない、というのは身に染みていたので。
しらいし今の運営状況はどうですか?
中島さんおかげさまで満床で回っています。重症度の高い方を受け入れるモデルって、経営的には難しい面もあるんですけど、地域に絶対必要とされているという実感があって。
吸引できる施設を探している家族の方って、本当に多いんですよ。必要とされているものをやっている、というのが一番の安定だと思っています。
重症度が高くても、安心して暮らせる場所を

えぼしあらためて、リニエハイムおおたはどんな施設か教えてください。
中島さん要介護4・5の方がほとんどで、半分近くが気管吸引の必要な方です。もともと入院施設だったので24時間看護師が常駐していて、そういった医療的ケアが必要な方でも受け入れられます。うちはそこが強みです。
えぼしリハ職出身の代表として、施設運営でこだわってきたことはありますか?
中島さん正直、最初はおむつ交換も苦手でした。でもリハ専門職こそ、介護動作をちゃんと見なきゃいけないと思ったんですよ。
ここは医療機関じゃなく福祉施設です。これまで介護に携わってきた方々から学びながら、まずは介護福祉施設であることをしっかり意識するようにしました。
施設のこだわりとしては、レクリエーションをしっかりやる、なるべく座っていただく。寝たきりにさせないということです。
要介護度が高い方が多いのですが、離床して、座って、腹圧をかけていく。そういう基本的なことを積み重ねると、排便が整って、食欲が戻って、目に力が出てくる。
歩けなくなっても、車椅子で景色を見に行けますよね。できなくなったことより、今できることを一緒に見つけていく。そこにリハ職が関わる意味があると思っています。
えぼしリハビリ病院にも近い雰囲気がありますね。
中島さんリハ職って「機能を上げて次の場所につなぐ」のが仕事じゃないですか。
それは、回復期病院での発想で、ここは病院じゃなくて、生活の場なんです。
まずは生活を安定させる。介護のベースをしっかり作る。その後に機能回復、最終的にQOLをどう上げるか、ということだと思うんです。その順番は、大事にしてます。
ただ、ここは生活の場だっていう、意識づけをするのに時間がかかった気がします。
えぼしリハビリ職としては、機能を上げることに意識が向いてしまいそうですね。
中島さん「上げた先に何があるか」を考えるのは大事ですよね。
作業療法士さんとかは、生活に合わせたリハビリがすごく得意だと思うので、クリニックに作業療法士さんもいるので、相談しながらやっています。
えぼしリハビリのスタッフの方は何人くらいいらっしゃるんですか。
中島さん施設専属の理学療法士は、僕です。下のクリニックには、リハビリスタッフが多くいて、言語聴覚士が3人、作業療法士も4人とかですね。施設とクリニックで連携を取りながらサービスを提供しています。
基本的には、20分のリハビリが必ず付いているサービスになっていて、もっと身体を動かしたいとか希望があれば、「もっとリハビリプラン」っていうのがあって、週3回、週2回とか、いくつかパターンがあります。クリニックに通所リハビリ、デイサービスがあるので、そこを使っていただいてもいいんです。
ご家族の方から「みんなと過ごしてほしい」というご要望もあり、デイサービスはとても人気です。
えぼし下のフロアにリハビリクリニックやデイサービスがあるのも特徴的ですよね。
中島さん通常だと送迎が必要なところ、エレベーターで降りればリハビリできる。入居者さんにとっても、スタッフにとっても動きやすい仕組みになっています。リハビリもしっかり提供できますっていうのが売りです。
えぼし充実していますね!
中島さんそれと、午後に1回レクリエーションがあるんですよ。全員レクリエーションルームに集まって、一緒にカラオケしたり、一緒に創作活動をしています。スタッフと入居者の皆さんと作ったフェルトの大きな花とか。
僕もですけど、創作活動が好きなスタッフがいるので一緒に考えてやっています。

えぼしスタッフの方みんなの意見を集めてレクリエーションを企画しているんですね。
中島さん16床という小さな施設なんですけど、だからこそみんなでやろうという文化が自然にできていて。屋上で野菜を育てたり、花火をやったりとか。花火は駐車場に車椅子をずらっと並べてやるんですよ。
介護度の高い方ばかりなのでちょっとヒヤッとする瞬間もあるんですけど、みんな楽しそうでしたね。

一か八か、入居者さんと五反田まで電車で行った日のこと

えぼし印象に残っている利用者さんとのエピソードを聞かせてください。
中島さん認知症の方も多く入居されていて、家に帰りたがる方もいます。だけど、いろんな事情で帰れなくて入居されていて。
その中でもお元気な方がいて、五反田に家があるとおっしゃるんですよね。ずっと帰りたがっていたんです。
ある日、一か八か連れて行ってみようと思って。娘さんに「ちょっと行ってきますね、ダメだったら戻ります」って伝えて、2人で電車に乗って行ったんですよ。
えぼしすごい挑戦ですね。
中島さんそうですね。そしたら、ちゃんと家があって、鍵を持っていたので一緒に入って。階段を上がったり、部屋を歩いたりしながら「結構傷んでますねえ」なんて話をして。使っていない家ってやっぱり傷みが早いので。そこで初めて「ああ、そうね」って。
で、昔その方が商売をしていた駅前にも行ったんですよ。そうしたらたまたま昔の知り合いがいて、少し話ができて。街はもうすっかり変わっていたんですけど、それを自分の目で見て、昔の話ができて。
なんか、納得されたんだと思います。そこからすごく落ち着いて、「帰りたい」とは言わなくなったんです。ご家族とも、「あれで一区切りついたのかな」っていうお話をしました。
えぼし入居者さんへ寄り添った関わりがされているんですね。また同じような方がいらっしゃった場合はどうされますか?
中島さんこれは代表だからできることだと思っていて。スタッフには同じことはなかなか頼めないですね。責任を取れる立場の人間が動く、それが僕の役割だと思っています。
認知症だから何もできない、じゃなくて。どうやったら、その方の気持ちに寄り添えるか、という視点で取り組んでもらえたらいいのかなと思います。一度立ち止まって、利用者さんとどう向き合うのか……そこは大事にしてほしいですね。
しらいし「帰りたい」っていう言葉の裏に何があるのか理由を紐解いていくって大事ですね。
中島さん「帰りたい」と言い続けるのには、必ず理由があるんですよね。帰りたい気持ちを否定するんじゃなくて、一緒に紐解いていく。教科書には載っていないことですけどね。
人間力みたいなものも大事だと思うんです。年の功もあるかもしれないし、だからといって若いスタッフの方が懐に入りやすかったりしますよね。
しらいしそうですね。家はどこにあるんですか?とか猫飼ってたんですか?とか、若いスタッフの方が聞き上手かもしれないですね。
中島さん素直な気持ちで入れば、孫みたいな感じでいろいろ話してくれることもあると思います。
リニエは、新卒でも、経験がなくても、全然かまわないと思っています。どれだけ入居者さんに思いを持って来てくれるか、そこを大事にしています。
TIME IS BIG MONEY

しらいし中島さんの座右の銘はありますか?
中島さん「TIME IS BIG MONEY」。ずっとこれです。10代の頃からなんですよ。思ったことを今やる。時間が一番大事だと思っているので。
えぼし今後の展望を聞かせてください。
中島さんとにかく上に行きたいんです(笑)。精力的にどんどん挑戦していきたいですね。
中島さんのおすすめスポット
えぼし蒲田でおすすめのスポットはありますか?
中島さん御成橋商店街にあるふたば食堂さんです。
えぼし商店街の定食屋さんいいですね!行ってみたいです!
今回お話を伺い、中島さんの「自ら動く」姿が印象的でした。地域に出向き、顔を出し、時には入居者さんと一緒に電車に乗って。その温かい関わり方が、「リニエハイムおおた」の空気をつくっているのだと感じました。本日は、貴重なお話を本当にありがとうございました。
取材・文:えぼしまなみ/ 取材・編集:しらいしゆみか / 撮影:ぽりまー
会社データ
・会社名:株式会社リニエArts
・設立年:1983年
・ホームページ:https://linie-group.jp/office/linieheimota/
リニエハイムおおた
混合型特定施設入居者生活介護有料老人ホーム
・所在地:東京都大田区蒲田1-9-11
・特徴:リハビリ特化型施設。1階に病院を併設し、24時間看護体制。また、旬の食材を利用した温かい食事、ご希望に応じたレクリエーションなどで、楽しく生活していただけるサービスを提供しています。
・問い合わせ:TEL 03-3737-4828
・リハビリ入居プランもあります。お気軽にご相談ください。
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