【インタビュー】地域の“困った”に駆けつける、夫婦ではじめたケアマネ事業所

高齢化が進む大田区の一角・梅屋敷で、「情報」と「ご縁」を武器に奮闘するケアマネジャー(ケアマネ)ご夫妻の本田和子さんと本田雅一さん。介護現場で長年経験を積んできた2人+心強いベテランスタッフが、小さな事業所で地域の困りごとに真摯に寄り添い、地域を“つなげる”支援を届けています。今回は、管理者である本田和子さんにお話を伺いました。“ワンチーム”の人情味にあふれる活動をご紹介します!

PROFILE
ープロフィール紹介ー

本田 和子(ほんだ かずこ)さん
ウィルソーシャルワークス株式会社 代表取締役/ウィル・カンパニー(居宅介護支援事業所)管理者/主任介護支援専門員

宮崎県出身。大田区内の社会福祉法人で、通所介護事業所(デイサービス)の生活相談員などを経て実践経験を積み、区内居宅介護支援事業所で介護支援専門員(ケアマネジャー)として勤務。その後大田区地域包括支援センターで主任介護支援専門員として勤務した後に開業し、2021年1月ウィルソーシャルワークス株式会社を設立、4月よりウィル・カンパニー(居宅介護支援事業所)を開設。

聞き手:まつなが・ぽりまー

本田和子さん

介護保険制度がスタートした頃から福祉・介護業界にいます。
事業所は今年で5年目に突入しました!

この記事の注目ポイント!!

居宅介護支援事業所の立ち上げは“夫婦会議”から始まった

まつなが

5年前、事業所を立ち上げることになった経緯を教えてください。

本田和子さん

事業所を立ち上げる前は地域包括支援センターにいたのですが、普遍的な対応が求められる現場に対し、自分は個に特化するやり方のほうが性に合っていたんですよね。

それで、1年半ほど働いたところでどうしようか悩んでいたところ、たまたま同じタイミングで夫も地域包括に異動になり、私と似たような思いを抱えていたので、「じゃあ独立しちゃうか」という話から夫婦会議をして、そこからたしか2、3週間で決まりました。やろうと決めたら4月1日に間に合わせようと、事務所も3月27日まで工事をしていて、バタバタの中でオープンしました。

まつなが

決断力がすごいですね! スタッフはどのように集めたんですか?

本田和子さん

今いる6人のケアマネたちが入ってくれた経緯はさまざまで、私たちと同様に地域包括への異動辞令や勤務先の閉鎖などがきっかけで来てくれた人、夫がやっている認知症講師の仲間でケアマネの資格を持っていた人などなど、3年前に一気に増えました。

皆もともとの知り合いだったり、知り合いの伝手だったりですね。

まつなが

本田さんご夫婦が引き寄せためぐり合わせなんですね。

本田和子さん

こればかりは本当にご縁とタイミングですね。私はキャリアがそれなりにあった上での独立でしたが、夫はケアマネの資格は持っていても現場経験はありませんでした。

人が増えてからは、私がバタバタしていても周りがフォローしてくれて、夫のこともみんなが気にかけて教えてくれたので、彼はそれを糧に自信をつけたんじゃないかと思います。私も、ケアマネとして仕事する彼らを知っていたので、安心して任せられました。

メンバー皆に名刺を渡して話しかけてくださり、気さくな雅一さん
まつなが

そうやってご縁がつながっていくのは素敵なことだと思います!
スタッフ同士の連携はどうしているんですか?

本田和子さん

うちはね、みんなでよく喋ってます。「困ったな」とか「どうしたらいいんだろう」っていうことは、誰かが何かしら口にするんですよ。経験豊富な人が多いので、困りごとを聞いたら絶対にそのままにしません。ちょっとした相談がミニカンファレンスみたいになるので、今どの利用者さんが困っていて、誰が動いているのかはなんとなくお互いに把握しています。

もちろん定例会議もありますが、大変そうな事例は周りが察して、みんなほっとかないんですよ。

まつなが

組織として、そういう風土を作ろうとしたんですか?

本田和子さん

多分、ノリだと思います(笑)。困っている人がいたら、みんな黙ってられないんですよね。だから、「こうしましょう」とかではなくて、みんながそうなっていったんです。

まつなが

それって、本田さんご夫婦のスタンスが主体だったんですか?

本田和子さん

いえ、私と旦那だけならこうはならなかったと思います。最初の1年は忙しくて、2人とも訪問に出っぱなしだったので、そもそも話す機会がなかったんですよね。なので、スタッフみんなのおかげで今があります。

経営者だからって上に立つとか思っていなくて、私も現場の同士として“ワンチーム”です。だって、みんな私より先輩でベテランなので、何か言うことでもないなと。だからこそ、周りものびのび自分のやりたいように働きやすくて、プラスの連鎖が続いているのかなと思います。

ケアマネとしてのキャリアが築かれるまでの道のり

まつなが

最初はデイサービス、そこからケアマネに転職し、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターとご経験され、独立した今で、働く上での心持ちはどう変わってきましたか?

本田和子さん

デイサービスでは職員として働きながら社会福祉士の資格を取り、途中から生活相談員として利用者さんのご自宅訪問や相談窓口を担当しました。デイサービスは、レクやお風呂など利用者さんが1日を楽しんで過ごす場所ですが、相談員として利用者さんの実際の生活を見たり聞いたりするようになり、デイサービスにいる姿は利用者さんのほんの一面でしかないことに気付きました。

そこで私は、「利用者さんのことは自分が一番よく知っている」ととんだ思い違いをしかけたのですが、その後ケアマネの資格を取って転職したら、そんなに浅い世界ではないという現実を突きつけられました。

まつなが

地域を見る視野が広がったんですね。

本田和子さん

デイサービスに来る利用者さんは比較的元気な人で、そうではない寝たきりの人や自力で外に出かけられない人が地域にはこんなにもいるのかと、自分の中では大きく考えを変えた時期でした。

まつなが

それが転職にも影響したのでしょうか。

本田和子さん

そうですね。デイサービスで7~8年働いた頃、異動と共に心境の変化があり、「地域の中で高齢者をいかに支えられるのか」を考えたくて、地域包括支援センターに転職しました。

そこでは主任として働いていましたが、人手不足などを理由に「地域でもっと必要な支援がある」と思ってもすぐには踏み込めず、「なんとかしてほしい」と現場から言われても、自分1人ではどうにも進められないもどかしさを感じていました。

まつなが

その分、今は現場の求めに応えたい、という思いが強いのでしょうね。

本田和子さん

そうかもしれません。今は立場上、自分のところに情報が集約されるので、必要な支援としてどこにつなげれば動いてくれるのか、いつもあちこちに電話をかけまくっています。ケアマネは、自分たちではどうにかできなくてもつなぐことはできるので、自分とつながった利用者さんが、少しでもつらい思いや悲しい思いをせずに過ごせたらいいなと思っています。

まつなが

その名のとおり、「地域のケアをマネジメントする役割」ですね!

本田和子さん

ベースとして自分たちと利用者さんの関係があって、地域包括はケアマネを通して利用者さんを見ているので、いかに我々が必要なところに連絡して、支援の必要性を切々と訴えるかで、支援の厚みが変わってくるのではないかと思っています。

情報で地域を“つなぐ”ケアマネという役割

まつなが

ここまでお話を聞いた中で、「地域」「つなぐ」というワードが印象的ですが、ご自身で意識されていることはありますか?

本田和子さん

よく冗談半分で、「私の仕事は口で話すことと、紙を持ってくること」と利用者さんに言うんですが、ケアマネ自身は直接的な介護をしない分、集まった情報から利用者さんたちの生活がうまく回るようにどう動くべきかを常に考えています。

あちこちから渡される情報をキャッチボールしながら、自分たちや一部の組織だけが頑張るのではなく全体化も進めて、トータルでこうあるべき、というのを明らかにするのがケアマネのあり方かなと意識しています。なので私は、情報をくれた事業所の皆さんへのフィードバックを踏まえ、ざっと近況報告を定期的にFAXで送るようにしています。

まつなが

うちもよくいただきますよね。いつも助かってます!

本田和子さん

情報は、後から知ると現場が滞ることもあるので、「知っておいたほうが後々困らないだろう」という情報は、なるべく共有しています。

まつなが

僕らも働いていて、地域の横のつながりが大事だとは思いつつも、どうすれば実際の行動につながるのかはいつも考えています。やっぱり、こまめな連絡は基本ですよね!

本田和子さん

訪問看護師さんやヘルパーさんが、利用者さんと関わりながらいろんなことに気付いてくれて、私がわからないことがあれば教えてくれて、情報を伝えてくれるので、結果的にそれが適切な支援につながっているんですよね。

みんなそうだと思いますが、自分も周りから助けてもらって今の形があります。やっぱり、コミュニケーションがとれていないと支援もうまくいかないですよね。日頃から「ありがとう」と「すみません」の気持ちです。

経験から学んだケアマネとしての寄り添い方

まつなが

対応エリア的にはどんな感じなんですか?

本田和子さん

エリアは京浜東北線を基準に、何かあった時にすぐに駆けつけられる範囲で考えています。「困っている人のための事業所」と思ってもらっているからか、紹介案件もちょこちょこあって、ゴミ屋敷とか障害などによりコミュニケーションがうまく取れないなど特別な事情がある時は、ご指名の電話がかかってきます。

また、うちは東京都の認知症実践者研修・指導者研修の講師が2人いるので、認知症関連の困りごとが地域包括に来たらうちに連絡が来ますね。

まつなが

特殊な事例は、なかなか受け入れづらい事業所もあるみたいですね。

本田和子さん

そうかもしれないですが、この仕事って自分の思い通りにならないことの方が絶対に多いですよね。だから、「こうできればこういう生活が待ってるよ」って教科書的に言ったところで、相手が理解できなかったり、嫌だと言われればそれまでです。そこのせめぎ合いというか、結局は私たちが思う最善が相手にとっての最善とは限らないので、最終的には利用者さんやご家族の選択になります。

私も、ベースとして「なんとかしてあげたい」という気持ちがとても強いですが、だからといって利用者さんの家族ではありません。入り込み過ぎそうになると、「私にやれることはここまで。これ以上やるとつらくなるよ」と自分に言い聞かせています。

まつなが

そう思う転機があったのですか?

本田和子さん

うまくいくこともいかないこともいっぱいありましたからね。自分は医療系専門職ではないので、引き際をちゃんとわかっておかないと、利用者さんだけでなく周りのスタッフも混乱させてしまいます。利用者さんを支えるチームとして、足並みを揃えるのも大事ですから。

以前は、自分の身と気持ちを削って熱くなることもありましたが、最近は一歩引いて考えられるようになりました。どんなに心配でも、私が駆けつけてやれることは限られていて、専門職が対応したほうがスムーズなこともたくさんあるので、今は「つなぐ」役割に徹しています。

自分じゃないとできなかったと感じた事例

まつなが

これまでご経験された中で、大変だったエピソードを教えてもらえますか?

本田和子さん

過去の事例ですが、50代でがん末期の利用者さん。「どうしても家に帰りたい」と退院したのですが、奥さんに未治療の重い持病があり、まずは奥さんをどうにかしてあげないと在宅介護どころではない状況でした。

ただ、奥さんは介護保険が使えないので、どこに相談すべきか悩みました。結局、区役所の地域健康課に連絡して、問題が山積みの中、一番の困りごとに的を絞って、つなげる先をなんとか見つけました。

まつなが

年齢の壁ですね…。

本田和子さん

いろいろな事情があり、依頼先には何度か断られたのですが、「本当に申し訳ないのですが、どうにかしてもらわないと利用者さんが在宅で生活できない」と繰り返し伝え、条件付きでなんとか支援をつなげることができました。もちろんこれで終わりではなく、その先々のことも考えなくてはいけないのですが、この事例は自分じゃないとできなかっただろうなと思います。

まつなが

想像しただけでも大変さが伝わってきます。

本田和子さん

ケアマネは介護支援専門員なので、当然介護保険サービスに特化していますが、利用者さんの困りごとをどういう手段で解決するか考えた時、必ずしも介護保険の範囲でどうにかできることばかりではないんですよね。特に最近は、介護保険の対象ではない方々でも支援を受けられる窓口を知っておかないといけないと感じています。

まつなが

この仕事をしていると、いろんな家族の形があると実感しますよね。

本田和子さん

最近は、家族がインターネットで見た情報で頭がいっぱいになった状態で来て、前提条件がまったく異なる成功例にひっぱられていたりすると対応が大変です。実際に今の環境ではそうはいかないようなことでも、伝え方によっては相手を否定することになってしまうので、信頼関係を築く上ではかなり慎重になります。

高齢化が進む街で“開かれた場所”を目指す

ぽりまー

なぜこの場所で開業しようと思ったのですか?

本田和子さん

この辺は、大田区の中で高齢化率が一番高い地域なんです。開業前に場所を決めるに当たり、主人が見つけました。建物は築何十年でボロボロなんですが、路面店にこだわった結果です。始めは「どうなんだろうね」と思いながらやっていましたが、たまにひょろっと地域の方が訪ねて来られます。

まつなが

どんな用件で来られるんですか?

本田和子さん

「車椅子ってどうしたら借りれるの」とかですね。インテリアに統一感がなくてちょっとわかりにくいかもしれませんが、困ったことがあったら入ってこられる場所にしたいと思っています。今は事務所と休憩室がナナメ向かい合わせなんですが、テナントが空いたときに近所のおじさんがすぐに教えてくれたんですよ(笑)。

まつなが

そういう場面でも地域のつながりを感じますね!

本田和子さん

地域交流にももっと力を入れたいのですが、現場を回るので精一杯で余力がないのが実情です。主人とも「商店街の方々とつながって、なんかやれることがあれば」みたいな話はするんですが、そこから次のステップになかなか行けないですね。でも、せっかくこの活気ある商店街に来たんだから、という思いはいつも持っています。

開業当時から変わらない理念

本田和子さん

「人とつながる
  地域(まち)とつながる
      気持ちとつながる」

開業当時から入口に貼っているうちの理念です。

ぽりまー

和子さん・雅一さんを始め、スタッフの皆さんでそれを体現しているんだなと、今日のインタビューで感じました!

まつなが

ご夫婦お二人の笑顔がとても印象的なインタビューでした。ありがとうございました!

文:ぽりまー/撮影:nao

会社データ
・会社名:ウィルソーシャルワークス(株)
・所在地:東京都大田区大森西6-12-9
・設立年:2021年
・ホームページ:https://wsw-mickey-soccer.com/company/

ウィル・カンパニー
・所在地:東京都大田区大森西6-12-9
・営業時間:平日8:30~17:30(ご利用者及びご家族の都合においては、営業時間外での対応も必要に応じて行っている)
・従業員数:ケアマネジャー6名
・主な業務:
弊社は居宅介護支援事業所の経営を行い、介護保険法に基づく介護保険サービスの調整と医療連携を通して、地域の高齢者福祉の支援をさせていただいております。介護支援専門員(ケアマネージャー)による居宅サービス計画書の作成から各種申請手続きなど、高齢者福祉において専門的な手続きや調整を代行しております。
・特徴:
社会福祉士の資格を持った介護支援専門員が、幅広いネットワークを元に、住み慣れた地域での暮らしをサポートします。東京都認知症介護指導者の資格保有者が2名在籍し、地域における認知症サポーター養成講座等の講師を担当し、地域貢献の取り組みの一環としています。

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