【インタビュー】患者さんは家族。自宅で過ごす安心をずっと支えられる薬局になりたい

梅屋敷商店街にある「あひる薬局」。代表の成田 佳世子さんは、小学生の頃から薬剤師を志し、今では在宅医療にも力を入れています。患者さんが自宅で安心して過ごせるよう、薬剤師としてできることを模索し続ける成田さん。その想いと、日々の取り組みに迫ります。

PROFILE
ープロフィール紹介ー

成田 佳世子(なりた かよこ)さん
株式会社あひる薬局 代表取締役/あひる薬局 管理薬剤師
2007年に第一薬科大学を卒業後、東邦大学 大森病院の門前薬局にて5年間勤務。その後、埼玉県熊谷市で数店舗経営している薬局のラウンダーとして1年間勤務した後、品川区の薬局に転職し、在宅医療・施設調剤などを経験。2018年に株式会社あひる薬局を立ち上げ、2019年よりあひる薬局を開局。現在7年目に突入。

聞き手:まつなが・ぽりまー

成田さん

京急線・梅屋敷駅から歩いて7~8分、商店街の中腹ぐらいにある薬局です!

この記事の注目ポイント!!

母の助けになりたい一心で、小学生から薬剤師を目指す

まつなが

あひる薬局はご自身で立ち上げたとのことですが、どういう経緯で薬剤師になろうと思ったのですか?

成田さん

母が重度のリウマチで、物心がつく前から闘病生活を間近に見ていました。薬剤師になりたいと思ったのは小学生の頃で、子どもながらに「何か助けられることはないかな」と思ったんです。原因(病気)がわかっていても、薬が合わないと治療を続けてもなかなか症状が良くならない姿を目の当たりにして、新しい薬を使う時に自分が一番に「この薬はこういう薬だよ」って、母に説明できる存在になりたいと思ったのがきっかけです。

その後、父親が指定難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した経緯もあり、今は薬剤師を天職だと思っています。

ぽりまー

そんな大変な境遇を前向きに捉えられるなんて…。

成田さん

私が生まれる前から、母親はリウマチだったんです。私を産んだことで悪化したみたいで、その負い目みたいなのもありました。

女性の出産が、いかに病気に影響するかを実感したと同時に、私と同じスピードでは歩けなかった母親が、人工関節を入れたことで並んで歩けるようになって、「こんなに良くなる治療もあるんだ」みたいなことも、一緒に学んできましたよ。

まつなが

近くで見ていると、病気への解像度が全然違いますよね。

成田さん

実家は青森なんですが、今は母の処方箋をこの薬局で受けて、全部自分で調剤して送っています。併用薬や相互作用をすべてチェックするのは、結構大変です。痛み止めやステロイドが他院から重複処方されていたこともありました。副作用やコンプライアンスも、何かあったらすぐ気付けるようすべて私がチェックしています。

まつなが

地方の処方箋を都心部で受け取れるなんて、便利な時代になりましたね。

成田さん

本当ですよね。まさかこうなるとは、自分でも思っていなかったです。

父の在宅介護をきっかけに、在宅医療の必要性を実感

まつなが

あひる薬局では、外来調剤と在宅医療の両方に取り組んでいるそうですね。

成田さん

はい。私が在宅に重きをおいている一番のきっかけは、父がALSになったことです。医師、看護師、薬剤師、リハビリ職、ヘルパーなどなど、あらゆる職種と関わって、介護職ってこんなに必要なんだと気付きました。ただ、青森と東京では違うので、どういう関わりが必要なのかいろいろ調べた結果、父のような神経難病だけでなく、がん末期や小児も在宅医療を必要としていることがわかりました。

どれだけ自分の家で過ごしたいか、そういう気持ちを感じ取る機会が多かったからこそ、在宅医療をやりたいと思いました。

ぽりまー

外来と在宅で、担当は分担しているんですか?

成田さん

うちのスタッフは、みんなが全部をやります。なぜかというと、スタッフ全員が把握している状況を大事にしているからですね。だって、外来の先に訪問がつながっていく可能性もありますよね? 危なっかしい患者さんを、「この人、本当に外来で大丈夫なのかな?」という視点で見たり、逆に訪問の患者さんに対して、「本当に訪問が必要かな、外来に戻れるんじゃないの?」と考えてみたり、そういうのにみんなが気付けるようにしたいです。

まつなが

1人でどのくらいの人数を見ているんですか?

成田さん

前は薬剤師1人につき40人という上限近くで回していましたが、それだとサービスが行き届かないので、今は1人あたり30人前後になるよう調整しています。持つ人数が多いと、急変が重なった時も定期訪問のすき間で対応しなきゃいけないですし、緊急の時すぐに行けない状況になってしまうと困るので、必ず誰か1人はイレギュラーに対応できるような体制にしています。

在宅訪問のスケジュール管理と緊急対応

まつなが

在宅はどういうスケジュールで対応しているんですか?

成田さん

薬の管理が自分でできない方や細かい調整が必要な方は1週間に1回のペースで行きますが、基本は2週間に1回、医師の処方が出るタイミングに合わせて訪問しています。あとは、緊急対応やがん末期の疼痛管理などで呼ばれたときは、その都度対応しています。状態が落ち着いている方たちは、曜日と時間をあらかじめ決めていますね。

まつなが

どのくらいのエリアまで担当されているんですか?

成田さん

一応、薬局を中心に半径16kmまでは対応可能なんですが、極力8km圏内にしています。それでも意外と広くて、品川区や川崎市も入ります。16km圏内になる場合は、緊急対応が遅くなってしまうことを伝えていますね。移動は、電動自転車か私のロードバイク・車を使います。

まつなが

薬剤師さんって荷物がたくさんある印象ですが、自転車でも大丈夫なんですか?

成田さん

全部背負って自転車に乗っています!その人の家に行って何を使うかわからないので、必要になりそうなものは全部持っていて、「ドラ○もんか!?」と言われたくらいです(笑)。ひも、画鋲、お薬カレンダー、テープ、カラーマーカー各色とか。リュック+栄養剤1ケースくらいなら余裕ですね。

ぽりまー

すごい…!体は大事にしないとですね。

成田さん

うちのスタッフはみんな体力あるので!在宅って体力勝負ですよね。だから、患者さんから「いつもありがとう」って、よく栄養ドリンクを渡されるんですよ。一生懸命さが伝わっているんだなとうれしくなります。

まつなが

緊急対応って、どういうものがあるんですか?

成田さん

医師からの指示で、「がん末期の疼痛コントロール不良で増量したいから、すぐに追加の医療用麻薬を届けてほしい」とか、「肺炎と診断されたから緊急で抗菌薬を届けてほしい」とか、そういうケースが多いですね。この前は、喀血を起こした患者さんに止血薬を届けた事例もありました。

まつなが

なんだか、病院での対応と似ていますね。

成田さん

そうですね。入院中の患者さんだと病室に届けるような薬を、私たちは自宅に届けるようなイメージです。

患者さんは家族。なんでも話してほしい

まつなが

外来と在宅を両方やるメリットってなんでしょうか。

成田さん

外来だと、患者さんの実際の生活がわからないので、「飲めてます」と言われたら信じるしかないですが、訪問したら「あれ?飲めてないじゃない」という例が少なくありません。在宅をやると、訪問看護師と目線が一致するので、「あれだけ薬が残っているってことは、飲めてないよね。じゃあ、どうしたら飲めるようになるかな?」などと、気軽に相談できます。

ぽりまー

連携が取りやすくていいですね。

成田さん

嚥下機能も訪看さんと一緒に確認して、「そろそろ大きい錠剤が飲みにくそうだな」と感じたら、対応について相談し、医師に剤形変更を提案することもあります。やっぱり、看護師さんからの情報共有がキーになるケースが多いですね。多方面から患者さんの話をたくさん聞けるほど、より患者さんに寄り添った提案がしやすくなります。

まつなが

思っていたより、訪問薬剤師の視点って患者さんの近くにあるんですね。

成田さん

在宅をしっかりやっている薬局のメリットは、そういうところなんじゃないかと思います。私にとって、患者さんは家族みたいな存在で、「私がしっかり面倒を見て、この人の健康を守ろう!」という気持ちが強いです。

外来と在宅を両立しているからこそ、患者さんの生活に一歩踏み込めるので、「全部相談してくれて大丈夫だよ」と伝えているし、患者さんからも話しやすい存在になりたいと思っています。人によっては、家族以上に近しい関係と言えるくらい、深いお話をしているかもしれません。

まつなが

患者さんに対してそこまで強く思いを馳せている薬剤師と、現場でお会いすることはなかなかないですね。

成田さん

もちろん、患者さんに対しての気持ちは外来でも在宅でも変わらないので、薬局に来てくれる患者さんとのコミュニケーションも大切にしていますよ。

そこの壁に貼ってある切り絵は、自立支援を受けている患者さんが作った作品です。「見せてほしい」とお願いしたら持ってきてくれて、あまりに出来が良かったので飾らせてもらっています。すごいですよね!

外来患者さんの作品を待合室に展示している

みんなの「家に帰りたい」を叶える仕事

まつなが

普段、どんなことを考えながらお仕事をされているんですか?

成田さん

患者さんとのやり取りを、業務の一つとして考えるのではなく、その人自身を見ています。患者さんたちの「家に帰りたい」という願望を叶えてあげられるのが、私たちの仕事なんです。自分の父親を見ても思ったんですが、病院とか施設に入るのをすごく嫌がって、「自分の家が一番」と思っている人たちを、いかに家で安心して過ごせるようにしてあげるか、私たちが考えていかなきゃいけない。

だから、頭を使わなくても正しく薬が飲める方法を考えて、薬をたくさん飲まなきゃいけない人の生活をいかに楽にしてあげるか、そういうのをちゃんと考えていきたいです。

まつなが

僕たちも見習いたいマインドですね…!

成田さん

あひる薬局では、「家でも持続点滴ができるようにしてあげたい」「抗がん剤治療をおうちでも継続できればいいな」という思いから、クリーンベンチと安全キャビネットを導入しています。とにかく、その人が自分らしい生活を送るためには自宅が一番なので、「一番良い自宅での過ごし方を提案できる薬局になろう」というのが、うちの理念です。

ぽりまー

近くにこういう薬局があると、在宅看護・介護をしているご家族も安心ですね。

成田さん

そうありたいですね。緊急対応が必要な時は、深夜でも休みでも構わず呼ばれるので、薬の在庫も多めに置いておかないといけません。本当の意味で24時間対応ができる薬局は少ないと思います。実際、昨日も一昨日も深夜1時に呼ばれました。あまりに立て続けに呼ばれると、「24時間営業にしようかな!?」と思っちゃいます(笑)。

地域密着の“面薬局”として構える

ぽりまー

一番近い医療機関はどちらになるんですか?

成田さん

裏に東邦大学医療センター大森病院がありますが、処方箋は近隣の医療機関からまんべんなく受けているので、うちは面薬局ですね。

まつなが

あの…、「面薬局」ってなんですか?

成田さん

門前薬局と面薬局があって、門前薬局は病院と連携して目の前に建てられて、受け取る処方箋のほとんどはその病院が発行したものになります。面薬局は、うちみたいに商店街などにあって、いろんな医療機関から発行した処方箋をバランスよく受けています。もちろん近くに病院はあるんですが、地域に根ざした薬局を面薬局っていうんですよ。

ぽりまー

きっと、そういう意図でここに開局されたんですよね。

成田さん

そうです。地域の人たちのための薬局にしたかったので。ただ、病院によって処方の傾向もいろいろなので、慣れるまでは大変でした。

ぽりまー

薬剤師の私から見ても、面薬局としてかなり理想的なのですが、実際にやると大変ではないですか?

成田さん

訪問診療の先生方とも連携して、その日ごとにエリアを絞るなど、なるべくまとめて対応するようにしているので、移動時間などでロスタイムが出ることはそんなに多くないですよ。スケジュールは調剤室のボードで管理していて、次に処方が出るタイミングから、何時に誰がどの時間で動くか計算しています。

薬剤師は、日によって3人だったり2人だったりもしますが、基本的には訪問の件数で人数を調整しています。最近は増えているのでちょっと忙しいんですが、基本私がいれば回るので、大丈夫です。

ぽりまー

かっこいい…!

スタッフ同士はなんでも言い合える関係性

ぽりまー

日々忙しい中、スタッフのモチベーションを保つ工夫などはありますか?

成田さん

みんな走り回ってるので、薬局に戻ってきて「あー、疲れた」とか言いますが、「終わったら美味しいビールが飲めるよ、頑張ろう!」などと声を掛け合いながらやっていますね。

まつなが

支え合いですね!

成田さん

在宅から帰ってきたら、訪問した患者さんがどうだったかを話しています。どんな家で生活していて、どういう感じの人だったか、みんなで共有すると、どこの患者さんでも誰でもわかる状況になります。誰か1人だけが頑張ってその患者さんに対応しなきゃいけない状況をなくせるようにしていきたいなと思っています。まれに、私しか対応できない人もいるんですが…。

ぽりまー

そうやって、情報共有が習慣化されているのはいいですね。

成田さん

あとは、自分が雇われ薬剤師だった時は「やりたいことを思うようにやれない」と感じていたので、スタッフがやりたいことを叶えられる薬局にしたいと思っています。何かを「したい」と言われたら、「いいよ」ってすぐ返しますし、例えば勉強会をやりたいとか、学会でこういうのを発表したいとか、「必要な費用は出すから、やりたいようにやっていいよ」と伝えています。

商店街の一員として、地域を盛り上げたい

成田さん

梅屋敷の商店街って、活気があって本当に楽しい場所なんです。イベントも多くて、お店の人たちが頑張っているのがすごく伝わってくるので、私たちも商店街を盛り上げるために一役買おうと、春祭りなどに参加しています。

まつなが

楽しそうです!

成田さん

いろんなオーナーさんと仲良しだから、大変ですよ。自転車に乗っていたらすぐに声をかけられて、なかなか進めません(笑)。地域に貢献できる薬局になりたいので、そういう意味でもこの場所を選んで良かったと思います。

ぽりまー

さっき通ってきた中でも、活気ある八百屋さんやお総菜屋さんに目を引かれました…!

成田さん

昔ながらの雰囲気を大切にしながら、若い人がどんどん集まって、赤ちゃんや未就学児でも楽しめる街にしていきたいです。イベントではスライム作りをやる事業所もあれば、うちは子ども向けに調剤体験やVR体験をやりました。認知症やパーキンソン病の人の視界を体験できるVR機器を貸し出して、子どもたちとおじいちゃんおばあちゃんの関わりのきっかけにしてもらったりとか。

まつなが

今度、僕の事業所ともぜひ一緒にやりましょう!

座右の銘「七転び八起き」

まつなが

なんで「七転び八起き」なんですか?

成田さん

私がまだ開業したての頃、在宅医が変更になったタイミングで、「おたくはPCAポンプ扱えないんですよね?じゃあチェンジで」と、担当薬局を外されたことがあるんです。

患者さんは私の薬局を希望してくださっていたにも関わらず、体制が整っていないため従うしかありませんでした。この悔しさをバネに、「無菌調剤だけではなく、依頼があればすぐ応えられる薬局を作るんだ!」という心構えができて、今の設備体制になったんです。

ぽりまー

そこで諦めなかったんですね!

成田さん

転んでもタダでは起きない、まさに「七転び八起き」ですよね(笑)。

何度転んでも立ち上がって、困難に立ち向かう気持ちを持つためにいつも自分に言い聞かせている言葉です!

まつなが

素敵なお話がたくさん聞けて良かったです。ありがとうございました!

文:ぽりまー/撮影:nao

会社データ
・会社名:株式会社あひる薬局
・所在地:東京都大田区大森西6-12-21-1F
・設立年:2018年
・ホームページ:https://www.ahirupharmacy.com/

あひる薬局
・所在地:東京都大田区大森西6-12-21-1F
・営業時間:月~金曜9:00~18:00 土曜9:00~14:00(日祝休み、緊急時や電話での相談は24時間対応)
・従業員数:薬剤師4名 事務1名
・主な業務:
処方せん調剤、市販薬の販売、在宅訪問(居宅管理指導)、高度管理医療機器のレンタル、無菌調剤(輸液や麻薬持続皮下注なども対応)、介護相談、栄養相談会(月一回)、検体測定
・特徴:
梅屋敷商店街の中腹に位置し、面薬局として開業しています。スタッフは年齢層が広く、20~60代まで勤務しており、経験豊富な薬剤師もいるので、どんなご相談もお任せください! ケアマネージャーの資格を持っている薬剤師もいるので、介護の相談などもお受けしています。

月1回の栄養相談会では、管理栄養士の指導を無料で受けることができ、生活面でのサポートもしております。在宅訪問は24時間対応しておりますので、緊急時はいつでも駆け付けます。

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