蒲田のまちを電動自転車で走りながら、ストーマや褥瘡(じょくそう)などの創傷ケアを専門に地域を支えるツインハート在宅クリニックの看護師・野口祥子さん。「皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC)」として、特定行為研修も修了しています。北九州での訪問看護、病院勤務を経てたどり着いたのは、「患者さんを診る」だけでなく「地域を育てる」看護でした。蒲田で広がる野口さんの取り組みと、その原点にある想いを伺いました。
PROFILE
ープロフィール紹介ー

野口 祥子(のぐち やすこ)さん
ツインハート在宅クリニック/皮膚・排泄ケア特定認定看護師
2016年、福岡県看護協会 皮膚・排泄ケア認定看護師教育課程を修了。2023年、日本看護協会 特定行為研修(創傷管理関連)を修了。2020年10月よりツインハート在宅クリニック蒲田に勤務。ストーマ、褥瘡、難治性創傷などのケアを専門とし、在宅医療の現場で活動している。
聞き手:まつなが、ぽりまー
50歳目前、″今さら″を飛び越えて――WOCとして在宅をやるために上京

まつながはじめに、看護師としてのご経歴を聞かせてください。
5年前、ツインハート在宅クリニック(当時:ファミリークリニック)への就職を機に、北九州から上京しました。50歳を目前に「今さらかな」と迷いもありましたが、どうしてもWOCとして在宅医療に関わりたかったのです。看護師歴は25年以上、WOCとしては今年で10年になります。
福岡県北九州市で訪問看護師として勤務していた頃、在宅での看取りを年間20〜24件ほど担当しており、当初は緩和ケアを中心に学んでいました。しかし、終末期によく見られる難治性の褥瘡や、管理が難しいストーマ、瘻孔、失禁関連皮膚炎(いわゆるおむつかぶれ)などに苦しむ利用者やご家族と数多く向き合う中で、「相談できる専門職が身近にいない」という現実を痛感しました。
目の前の困りごとに十分応えられないもどかしさを抱えるなかで、「いないなら自分がなろう」と思ったことが、WOCを目指したきっかけです。
ぽりまー患者さんとの出会いで人生が変わったのですね。
WOCの認定看護師教育課程を修了した後は、一度在宅の現場を離れて、法人内の急性期病院へ異動し、ストーマ外来や褥瘡回診に従事しました。しかし、私には「在宅現場で活かすためにWOCになった」という信念がありました。地方ではWOCの専門性が十分に活かされにくい現実もあり、子どもの成人を機に東京進出を決断。そして再び訪問看護の現場に戻り、専門性を存分に発揮するために特定行為研修も修了しました。
まつながいきなり東京に出るというのは、ハードルが高くありませんでしたか?
新卒時に神奈川で勤務していたため、まったく未知の土地という感覚はなかったです。清瀬は認定看護師教育課程でも知られた場所で、地方の看護師にとっては憧れの地でもあります。
病院では見られない、暮らしの中の笑顔を見たい

まつなが「在宅をやりたい」と上京してしまうほどの思いは、どこから生まれたのでしょうか。
病院で出会う患者さんは、どこか“よそ行き”の表情で、遠慮がちに見えることがありました。「家ではどんな顔をしているのだろう」「どんな暮らしをしているのだろう」と想像するうちに、その方が心からくつろいだ笑顔を直接見たいと思うようになったんです。
ご自宅は、その人にとってのいわば“お城”。最も落ち着けて、体力を消耗せずに過ごせる場所です。だからこそ、可能であれば自宅で療養できることが一番いいのではないか――その思いが、在宅を志した原点でした。
まつながそこで今の職場を選ばれた理由は何だったのですか?
ツインハート在宅クリニックは、当時訪問看護ステーションとしての指定を受けていたため、他院の指示書にもクリニックからの依頼にも応えられる“両刀使い”の体制に魅力を感じました。クリニックがバックにある安心感も大きく、医師との距離が近いため、創傷ケアに必要な外用薬も迅速に処方してもらえます。気軽に相談できる環境は本当に心強いですね。
ぽりまー急ぎの対応が必要な場面も多いですものね。
そうなんです。院長兼理事長も、「どんどん行っておいで」「責任は取るから」と背中を押してくださり、50代の私でも安心して挑戦できました。WOC取得後に病院で褥瘡回診やストーマ外来を経験できたことも大きな糧です。ここに至るまでのすべてが、今につながっていると感じています。
在宅WOCの希少性を、連携という力に変えて

まつなが在宅の現場にいると、褥瘡やさまざまな皮膚トラブル、ストーマ関連などで困っている患者さんが本当に多いと感じます。もっと多くの方に関わっていただけたら心強いのですが。
身近なWOCも何人かおりますが、病院勤務しながらの非常勤だったり、訪問看護ステーションの管理者と兼務だったりと、在宅専門で動ける人は限られています。WOCが主に担う特定行為は、「陰圧閉鎖療法」や「デブリードマン」で、処置を適切に行うためには専用の器具や滅菌設備が不可欠です。
そうした環境が整っているクリニックを基盤に活動できるのは強みですが、環境が整わず資格を活かしきれないという声もあります。そこで当院では器具の貸し出しなど、資格所持者を支える体制づくりも進めています。
まつなが支援体制まで…!なかなかできることではないですね。
クリニックでは特定行為研修の実習生も受け入れる予定で、在宅で創傷ケアを実践できる看護師を育てるために、現場の中で支えていきたいと考えています。
まつなが現体制でも、クリニック所属の認定看護師として他の訪問看護ステーションと連携することは可能なのでしょうか?
はい、可能です。以前は「当院の患者さんでなければ難しい」という認識でしたが、厚労局に確認したところ、他院の先生から診療情報提供書をいただければ、他ステーションとも連携できることがわかりました。在宅WOCはまだ少ない存在ですが、だからこそ地域全体でリソースを共有していく働きかけが、これからの在宅医療には必要だと思っています。
あの時の無力感が、私をここまで押し上げた

まつなが野口さんが看護師を目指された原点には、どんな出来事があったのでしょうか。
実は小学生のときに、母を亡くしたんです。入浴中の事故で全身の3分の2以上に及ぶ重度熱傷を負い、ICUで治療を受けていましたが、皮膚移植を予定していた前日に亡くなりました。院内感染だったのかもしれませんが、今となっては分からないままです。何もできなかった無力感が強く残り、「誰かの力になれる仕事がしたい」と思ったことが、看護師を志した原点です。
いまWOCとして皮膚や創傷に関わっているのも、その思いの延長にあるのかもしれません。ただ、看取りの場面では「自分には何ができたのだろう」と問い続けることが多くありました。
まつなが何度経験しても、正解はわからないですよね…。
その時に転機となったのが、NPO法人「対人援助・スピリチュアルケア研究会」との出会いです。傾聴を学び、処置だけでなく「関わってもらえてよかった」と思ってもらえる支援を考えるようになりました。
その延長で、北九州の暮らしの保健室『こみねこハウス』にも参加しました。古民家に地域の方や医療・介護職が集い、ごはんを作り、体操やバザーをしながら語り合う。肩書きを外して交わる時間の中で、私自身も癒やされ、地域に根ざすことの大切さを実感しました。訪問看護で難治性瘻孔や管理困難なストーマに向き合い、WOCを目指したのもその流れです。
ぽりまー素敵な出会いがたくさんあったのですね!
暮らしの保健室に誘ってくれたのは、当時同じ訪問看護ステーションで働いていた仲間でした。彼女たちと「私たち、コミュニティナースのような存在になれたらいいよね」とよく話していたんです。訪問看護で一人ひとりに向き合う中で、自然と“地域の中で人を支える”という視点が芽生えていきました。
月刊広報誌、勉強会、同行訪問──描いたビジョンを一つずつ実現
ぽりまーブログに掲載されているWOCかわら版を拝見しましたが、入職された翌月に第1号が発行されて、最新号は65回目なんですよね。もともと広報誌を作られていたご経験があったのですか?
いえ。初めてでしたが、自分から「やります」と始めたことです。面接のとき、「毎月広報記事を書きたい」「地域住民向けの勉強会がしたい」「訪問看護師さんと同行訪問をしたい」と、当時の看護部長にお話ししたのですが、すべて「できますよ」と答えてくださったのが今のクリニックでした。
あの時に思い描いたことを一つずつ実現していて、広報誌も今のところ毎月休まず続けています。
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ぽりまーまさに有言実行ですね!
訪問看護ステーションへの出張勉強会や、地域包括支援センターでのスキンケア講座も実技つきで開催しており、夏には熱中症予防の話から「汗をかきましょう」と、私のふるさとの“炭坑節”をみんなで踊る回もありました(笑)。
勉強会では、準備した内容以上にその場の流れで広がっていくやり取りがとても楽しくて、むしろ私の方がエネルギーをいただいています。
まつなが地域活動も楽しみながらやられているんですね!
はい。現場では訪問看護師さんと伴走しながら創傷ケアを伝え、地域活動を通して知識を広める取り組みをしています。患者さん、クリニック、そして地域の“三方良し”を少しずつ形にしていくことが、いまの私の目指すところです。
安心感をまとう穏やかな情熱の源は、感謝の気持ち

まつなが野口さんの、そのエネルギーや情熱はどこから来ているのでしょうか。
情熱というより、目の前の人とどう向き合うかの積み重ねですね。利用者さんやご家族の前では少しでも良い方向へと無我夢中ですし、地域の場では「来てよかった」と思ってもらえる時間をつくれたら、と願っています。つながりの“輪”の中にいる感覚があって、年齢を重ねた今は、自分を出しすぎないほうが分け隔てなく向き合えると感じています。
まつなが地域目線で動くのは簡単ではないと思いますが、野口さんの穏やかな雰囲気と、傾聴を学んでこられた積み重ねが、今の専門性と重なって自然に体現されているのだと感じました。
ぽりまー本当にそう思います。お話を聞いていて自然と心が落ち着きますし、話していて安心感があります。いい意味でその穏やかさに引っ張られるというか、まとっている空気感そのものが地域活動の土台になっているように感じました。
ありがとうございます。本当に、今まで出会った方々に助けられてきただけなんです。患者さんも、仲間も、地域の皆さんも、これまでの出会いがあったからこそ、いまの自分があるのだと思います。
ふるさとを離れても“つながり”はいろんなところで感じられる

まつながずっと東京にいて、ふるさとが懐かしくなることがありませんか?
北九州では移動はすべて車でしたが、こちらでは電動自転車で蒲田を拠点に田園調布から羽田まで回っています。多摩川や呑川が流れ、自然も多く、気候もどこか故郷と似ていて、「ここは本当に東京かな」と思うほど馴染んでいます。
このエリアは父の介護で一緒に暮らしていたこともあり、多摩川の河川敷や洗足池、大森ふるさとの浜辺公園には特に思い入れがあります。風を感じて走るうちに、これまでの人生で見過ごしていた野の花や木々にも目が向くようになりました。
まつなが僕も、蒲田周辺の自然にはいつも癒されています。
その流れでランニングも始め、もうすぐ2年になります。週末に5〜10キロほど走りながら、池上本門寺などお寺を巡るのが楽しみで。実は子どもの頃に日蓮宗のお寺に通っていて、大田区・池上本門寺が日蓮宗の総本山だと知ったときは、「ああ、ご縁があるんだな」と感じました。
目指すは“地域の資源”になること。気軽に相談を

まつながクリニックはいくつか拠点がありますが、野口さんはどのくらいのエリアをご担当されているのですか?
基本的には全エリア対応しています。遠いところでは二子玉川や川崎市高津区の蟹ヶ谷まで、電動自転車で向かうこともあります。片道1時間ほどかかりますが、移動も楽しみのひとつですし、帰りにご挨拶や情報共有を兼ねることもあって、効率も悪くないんです。
まつなが想像以上に広いエリアですね……。
ありがたいことに、「そこまで行かなくていい」と止められることがないんです。特にストーマの方は、外来に通えなくなった途端に困ってしまうことが多いので、私は“走るストーマ外来”と名乗って訪問しています。必要とされる場所へ出向き、少しでも地域に根づいた支援になればと思っています。
まつながストーマや褥瘡のことで「野口さんに見てほしい」となった場合、どこに相談すればよいのでしょうか。
まずはツインハート在宅クリニックへご連絡ください。電話・メール・公式LINEいずれでも大丈夫です。必要に応じて医師や訪問看護師と連携するので、「重いケースだから」とためらわず、まず一歩踏み出してほしいですね。これまでに、やり取りの中で簡単な情報と写真を送っていただいて、遠隔での助言で改善に近づいた例もあります。
私にとって大事なのは、診療報酬よりも“地域の資源になること”です。患者さんやご家族だけでなく、看護師さんや介護職の皆さんが類似症例に強くなり、地域全体が底上げされることが理想です。経験を“肥やし”にして、次の支援につなげてもらえたらうれしいですし、そこから特定看護師や認定看護師を目指す方が出てきたらなおうれしいですね。かつての自分のような無力感を、誰にも抱えてほしくないという思いも、どこかにあるのかもしれません。
まつなが身近にすぐ相談できる専門職がいること自体が大きな安心ですよね。「これでいいのかな」と確認できるだけで、現場の自信にもつながります。
車中の“秘密会議”から生まれたツインハートカフェ

まつながツインハートカフェは、野口さんと地域連携・毛塚さんのお二人で運営されていますよね。始まりのきっかけと、今の活動を教えてください。
最初に声を上げてくれたのは毛塚さんなんです。月に1〜2回、地域へのご挨拶に一緒に行く機会があって、その車中でいろいろな相談や意見交換をする“秘密会議”をしてるんです。そこでカフェの話や、地域へのアプローチのアイデアが次々と生まれました。
毛塚さんは一般企業での営業経験があり、本当に学ぶことが多い存在です。毛塚さんがいなければ実現できていなかったことばかりです。今は蒲田と二子玉川の2つカフェがあります。どちらも医療・介護職がざっくばらんに語り合い、「私たちにできること、皆さんにできること」を持ち寄る場になっています。
まつながツインハートカフェでは、どんな話題が多いんですか? 困っているケースの相談やアドバイスのやり取りもあるのでしょうか。
蒲田では終了後に症例写真を持参してのWOC相談が多いですね。当院の池末 麻奈先生が参加してくださり、即興の勉強会になることもあります。訪看さんがそれを目当てに来られるんですよ。
まつなが僕も都合が合えば行きたいです!
ぜひ。実務的な情報共有から患者さんの悩みの相談まで幅広い話が出ますし、そこで生まれたつながりが新しいコミュニティづくりの土台になることもあります。「何か発信したい」「どう動いたらいいか分からない」という方が来て、土台や肥やし、資源のような存在になれたらうれしいですね。ご縁がまた次のご縁へとつながっていく、そんな場になっています。
一隅を照らす人でありたい

まつなが最後に、野口さんご自身が大切にしている信念や、座右の銘のような言葉があれば教えてください。
傾聴を教えてくださった先生からいただいた、「一隅を照らす」という言葉があります。「光が当たらないところに光を当てる人になれ」という教えです。ずっと心にあって、いつか独立するなら、屋号を“ぐうてら”にしたいと思っているんです。“ぐうたら”みたいで覚えやすいでしょう?
まつなが自分のいる場所で最善を尽くし、そこから周りや社会全体を照らしていく、ということですね。とても素敵な言葉です。
今日こうして話しながら、自分の原点に改めて立ち返れた気がします。
ぽりまー「一隅を照らす」、私も覚えておきたい言葉です!野口さん、ありがとうございました!!

文・撮影:ぽりまー
会社データ
・会社名:医療法人社団双愛会
・設立年:2005年
・ホームページ:https://www.twinheartmedical.com/
ツインハート在宅クリニック蒲田(旧ファミリークリニック蒲田)
・所在地:東京都大田区南蒲田2-4-19 ANTビル4F
・営業時間:平日9:00~18:00 ※かかりつけ患者様は24時間365日の緊急往診対応
・特徴
「断らない在宅医療」を基本方針として大田区蒲田にて2005年より診察開始。
品川区・目黒区・世田谷区にも拠点があり、現在4店舗で在宅医療を提供。
総合診療+3つの柱(救急センター・緩和ケアセンター・認知症センター)でさらなる安心を。
「持続可能なチーム医療」で「ご自宅で最後まで安心して過ごせる社会」を目指しています。
・お問い合わせ:TEL 03-5480-1810/FAX 03-5480-1823
・資料:在宅医療に関するご案内(パンフレット)
【在宅医療に関するご相談を随時受付中】
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